エリザベート・バートリ

☆私が興味を持った理由
 エリザベート・バートリ(バートリ・エルベシェット)。初めて彼女の存在を知ったのは、池田理代子氏の『ベルサイユのバラ』の最終巻に載っていた外伝でであった。本当にこんな恐ろしい女性がいたのだろうか…信じられない…恐ろしい…とその時は、そう感じただけだった。
 しかし、後に、私が桐生操(女性2人の共同ペンネーム)さんの作品を読み始めた頃にまたこのエリザベート・バートリーの話に遭遇し、大変に興味が湧いたというわけです。
 自分の美を守る為に、600人余りの少女達を惨殺した、血の伯爵夫人。何故、彼女はこんな奇怪な行為を行うようになったのか、恐ろしさの中にも私の中で“何故”という思いが消えなかった…。そして私なりに調べてみたいと思うようになったまでです。

☆エリザベート・バートリの生い立ち
 エリザベート・バートリは1560年に父ジョルジュ、母アンナとの間に生まれる。母のアンナはジョルジュに嫁ぐ前に2度の結婚歴があり、ジョルジュとは従妹同士の結婚になる。ジョルジュとアンナの間には4人の子供がいた。イシュトヴァン、エリザベート、ゾフィア、クララである。
 バートリ家といえば、名門ハプスブルグ家との繋がりもある由緒ある貴族の家柄でその血筋は13世紀まで遡ることができると言われているそうだ。近親婚が相次いでいることからも何よりも血筋を大切にしていたことが伺える。
 エリザベートの幼少期に関してはあまり文献もないようである。10歳で婚約し、14歳で、相手はやはりバートリ家ほどの名家ではないにしろやはりハンガリーでは屈指の貴族、ナダスディ家のフェレンツと結婚した。そして、後に悲劇の城となるチュイテ城に移り住む事になる。
 夫とも姑ともあまりうまくいっていなかったようで結婚して3年経っても子供には恵まれなかった。不妊に悩み、彼女は妖術使いを招き、それから彼女の生活に変化が見られたと言われている。
 結婚して10数年後にエリザベートは子供を産む。そして4人の子供達、アンナ、オルソルヤ、カタリナ、パル(長男)に恵まれるが、子供達は彼女にとってなんの慰めにもならなかったようである。また、生まれてすぐ、乳母達に任せてしまった為、子供達も母親には懐かなかったようである。

☆始まりは?
 いつからこの残虐行為が始まったのかは定かではないが、夫ナダスディが亡くなってから一気にこの残虐行為が加速したとも言われている。夫が亡くなった時、彼女は44歳だった。
 始まりは妖術使いを招き、黒魔術などの手ほどきを受け、身につけてからのような気がする。そして、魔術の中でも「血」これこそが、彼女が歳をとっても若返りを与える、永久の美の要素であると認識してしまった為に、この惨劇が巻き起こったようにも思える。それも若い娘の血に限られている。まだ穢れをしらない血…。
 彼女には共犯とも言える、3人の忠実な召使達がいた。下男のフィッコ、乳母のヨー・イローナ、そしてその助手のドルコ。犯罪が発覚するまでの間、この3人はエリザベートの影のような存在で、その犯罪の1つ1つに加担していく。
 一重に言われているのは、ある召使が彼女の髪の毛を梳いているときに粗相をしたようで、エリザベートがその召使を殴ったら血が出たようで、たまたまその血がエリザベートの手についてしまったようだ。彼女はその血をすぐに拭いたが、こころなしか、その拭き取った後の皮膚が、普段よりもみずみずしく感じたようだ。これがことの始まりとされている説が多いようだ。
 それから、娘を裸にし、紐で縛り上げ、ムチで打ち、体が腫れあがってきたら、カミソリで肉体のいたるところに切り傷をいれていき、たらいの中にその血が入るようになっていたとか…。そしてエリザベートはその血で全身を清めたらしい。陶酔感に酔いながら…。
 そう、自分が美しくなる為には、何をしても許される、バートリ家という由緒ある名門貴族でもある自分なら、何をしても許される…悲しいけどそう思い込んでいた節がある。召使を人間とも思わない、召使は生贄の道具としか思わなくなってしまったが為に、悲劇以上の惨劇が繰り広げられたといっても過言ではないだろう。

☆夫の死
 夫の死後、エスカレートした残虐行為。『鉄の処女』や『鳥かご』などの拷問道具もこの頃から使われるようになったようだ。鉄の処女とは人間そっくりの機械人形で、皮膚は人間そっくりの肌色、人間と同じように肉体の器官が備わっているもの。胸の宝石を押すとゆっくりと両腕を上げ、自分の腕を抱え込むような仕草をし、目の前にいる少女は逃げるまもなくその腕に捕まってしまう。人形の胸は空洞になっており、そこが開き、中には鋭い針が生えており、娘の身体はその針によって貫かれることになる。これが鉄の処女である。世にも恐ろしい殺人道具の1つである。
 次にこれもまた恐ろしい殺人道具に鳥かごがある。鳥かごとは人間を中に閉じ込めて、吊るし上げ、スイッチを押すと、四方八方から針がカゴの内部めがけて、飛び出してくるものである。中にいる人間はその恐怖から身をよじったり、針を避けたりしようとするが、吊るされている為、よけようとすれば、かごはどんどん揺れ、結局逆効果になってしまい、血を搾り取られて死に至らしめられるというわけである。
 血・血・血…この時のエリザベートにはもう、これしかなかったのだろう。若い娘の血。いつの間にか、召使だけでは足りず、忠実なる僕たちが農民の娘を召使として連れ帰っていたが、だんだんと不信に思うものが後を絶たなくなり、生贄探しにも往生するようになってきた。そして貴族の娘にまで手を掛けて…その勢いは留まるところを知らないかのようだった。
 娘達の最後の1滴の血ですら無にするのはもったいないとでもいうように、その最後の1滴まで搾りとってしまうのだから、本当に恐ろしいとしかいいようがない。しかし、そんな時は長く続くはずもなく、当然彼女にも破滅の足音が近づいていた。

☆破滅
 1610年、もうこの頃になると、エリザベートは娘達の死体処理にも困っていたと言われているし、司祭達も埋葬を断っていたと言われている。腐敗した人間の肉体の臭いがチュイテの城を取り囲んでいたようだ。
 結局、裁判が開かれることになったのだが、エリザベート本人は出廷しないという異例の裁判形式をとっていた。その理由はハンガリー1・2を争うと言われている、屈指の名家、ナダスディ家とバートリ家、この両家の家名を穢すことはできない…その為に、秘密裏に事が運んだようだ。
 彼女に忠実だった3人は皆、死刑となった。ヨーとドルコに関しては手・足の指を引き抜かれ、生きたまま火の中に放り込まれることが決まり、フィッコに関してはその罪に着手した当初が未成年であったことを考慮し、首を斬りおとしてから火に焼かれることとなった。エリザベートに関しては処刑はなされなかった。バートリという名家の前では国も司祭も太刀打ちができないのだろうか…。
 エリザベートはチュイテの城の地下に幽閉され、3年半生きたそうだ。食べ物を差し入れるだけの扉以外、全て閉ざされた闇。牢獄。その肉体はやせ細り、かつての美貌の面影はなかったようだ。彼女の死因は栄養失調だったようだ。
 1614年8月21日 享年54歳

☆最後に
 美は滅びるからこそ美しいものだと私は思う。1人の人間の為にささげられた600人余りの命。そして、名門貴族だったがゆえに欠席裁判で処刑はなしという異例中の異例。普通ならこの時代なら魔女裁判ぐらいにはかけられていそうなものだが、名家の前には教会・司祭・国王ですら手が出せないものなのかもしれない。でも、亡くなった多くの若い娘の命は魂は、果たして救われるのだろうか。彼女が処刑されたからといって、決して救われはしないだろうが、それでも…。
 しかし、このエリザベートはただ自分の美を追求したかっただけであり、若さを保ちたいという、その欲望の為に、間違った方向へ進んでしまった。痛ましく哀しい人生だと思う。女吸血鬼、血の伯爵夫人と言われ恐れられたけれども、彼女の人生は一言で言うならば、恐ろしく、哀しい、そして痛ましい人生だったといえるだろう。
 小説の『吸血鬼カーミラ』のカーミラは実在の人物ではないけれども、このエリザベート・バートリをモデルとしているようである。私は『吸血鬼カーミラ』は未だ読んだことがないが、近いうちに読んでみたいと思っている。『吸血鬼カーミラ』は美内すずえさんの『ガラスの仮面』内の劇としては登場していましたね。

参考文献
☆ベルサイユのバラ(池田理代子)
☆エリザベート 血の伯爵夫人(桐生操)
☆美しき拷問の本(桐生操)
☆美しき殺人法100(桐生操)
☆きれいなお城の怖い話(桐生操)

参考HP
エリザベート様のお部屋
歴史街道の旅人達
血液なんでも講座